病状の解説

精神障害とは

統合失調症

幻聴と妄想を主症状とする精神病性の障害です。

薬物療法が格段に進歩して、社会復帰が可能になり、結婚や仕事もできるような時代になりました。
治療の中心になるのは薬物療法ですが、薬物中断による再発率が高く(1年以内にほぼ100%です)、継続して服薬することが大切です。デイケアなどの社会療法も有効です。

精神病性障害は統合失調症のほか、一過性なものや短期のものがあって予後も経過も異なりますので、鑑別診断が重要になります。

症状
  • 自分の悪口が言われている
  • 自分のことを批判したり、コメントしたり、監視している声が聞こえる
  • 声同士がコメントしたり、笑ったり、噂する声が聞こえる
  • 誰かが跡をつけている
  • 噂している
  • コンピューターで操作されている
  • 町を歩くと、人が自分を観察している
  • 閉じこもって独り言を言っている
解説

代表的な精神病性の障害です。精神病性とは幻覚や妄想が主要症状であることを意味します。精神病性の障害はこのほか妄想性障害、急性一過性精神病性障害、統合失調感情障害などがあります。

統合失調症は予後のよいものと進行性のものがあり、社会適応の回復の程度もさまざまです。おそらく異なった遺伝因子が関与している「症候群」であろうと考えられています。

統合失調症は特徴的な幻覚と妄想があります。幻覚とは「対象なき知覚」と定義されますが、統合失調症の幻覚のほとんどは「人の声」で、幻聴(幻声)といいます。妄想は「他人と共有できない誤った事実を確信し、訂正ができない」ことが定義になりますが、統合失調症では被害妄想(人が自分の悪口を言っている、自分をはめようとしている、企んでいるなど)、関係づけ妄想(自己との病的な意味づけ)、追跡妄想、注察妄想(人が自分を見ている、監視しているなど)、被毒妄想などが特徴的な妄想です。
急性期の精神症状は幻聴と妄想のほか、自我障害という症状があります。自分が何かの力で操られたり、命令されて行動を強制されたり、他人の施行が頭に入ってくるとか、考えていることが音声になって漏れたりするなどの症状です。

慢性期になると、陰性症状といわれる、障害のよって引き起こされる脳の機能の欠損症状が出ることがあります。意慾が低下する、感情が平板化する、人との関わりをたち、閉じこもるなどの症状です。

治療

近年の統合失調症治療の進歩は優れた抗精神病薬が多数開発されたため、といってもよいでしょう。

薬の作用機序についてお話しします。なぜ薬を飲む必要があるのかを理解するためです。中枢神経のニューロンとニューロンはネットワークを作っていますが、その接続部は隙間が空いていて、情報の伝達はその隙間を神経伝達物質といわれる物質(ドーパミン、セロトニン、アセチルコリン、ヒスタミン、グルタミン、ノルアドレナリンなど多数があります)が伝えています。ニューロンの接合は、たとえばドーパミン作動性ニューロンなど、専用回線になっていて、神経伝達物質が受容体の穴にはいると、情報が伝えられるような仕組みになっています。抗精神病薬の作用機序は神経シナプスのD2受容体(ドーパミンの受容体のタイプは5つあって、そのうちタイプ2)とセロトニン2A受容体を選択的に薬が占拠して過剰なドーパミンやセロトニンの活動を抑えるというものです。精神症状はドーパミンの過剰活動と、セロトニンは陰性症状と関係があると考えられています。

薬は神経受容体を占領して穴を塞ぐようにして働くので、薬を飲まないと、ちょうどタイルがはがれるように穴から少しずつ脱落して、再び精神症状が活発になってしまいます。薬をきちんと飲まなければならないのはこのためです。

薬はさまざまな特性(くせ)があります。患者さんにあった薬物を症状にあわせて選択するのが臨床医の腕ともいえます。

面接では統合失調症の患者さんのもつ生きる上での脆弱性を補強し、安心と安全を送り届ける技術が重要になります。また、デイケア、SSTなどの社会療法、本人や家族への心理教育なども行う必要があります。

自己臭妄想症

「私はいやな臭いが洩れている」 自己臭妄想症の訴えです。

意外と我が国で多い障害ですが、実際に精神科に受診される方は少なくて、臭いの発する場所によって、歯科、耳鼻科、婦人科、泌尿器科、皮膚科、内科などに受診しています。そのために的確な治療を受けていません。

臭いは体臭、腋臭、性器の臭い、尿の臭い、便臭、精液やおりものの臭い、おならなど他人を不快にさせ、人に知られたくない臭いである特徴があります。 この障害は「自分は嫌な臭いがする」「そのために人が自分を避ける」という二つの文節があり、嫌な臭いは周囲が否定しても、本人は確信して訂正できないことが特徴です。その臭いのために、周囲の人が自分を避ける(電車の座席から立ってしまう、顔をそむけるなど)と確信している妄想性障害です。薬物療法が有効ですから悩まないで受診していただきたい障害です。

気分障害

気分障害とはうつ状態あるいは躁状態を主症状とする障害です。

うつ状態とは、抑うつ的な気分と心と身体両面の活動低下と体の症状という3つの領域で症状が出現するのが特徴です。

抑うつ的な気分とは、取り越し苦労が多くなる、気分が重い、考えることが悲観的、興味や関心が無くなる、自分を責める、自己評価が低下する、自殺したいとか、消えて無くなりたいとか感じる、将来に対する不安が増えるなどの症状ですが、一つ一つの症状というより、全体の気分がそのように染められるのが抑うつ気分というものです。

心と体の活動性低下というのは、精神運動制止といいますが、おっくう、面倒、疲れやすい、頭の活動が低下する、アイディアが湧かない、決断できない、記憶力が低下したという症状です。

身体症状は頭痛、頭が重い、食欲の低下、元気が出ない、疲れやすい、性欲が低下した、肩こり、味覚の低下、原因不明の身体の痛みや違和感などです。体の病気と思って発見が遅れる場合があります。

うつ病では日内変動というのが特徴で、85%が朝調子が悪いタイプで、15%が優雅になってダラ下がりに元気が無くなるタイプです。一日のうちで、症状が変動するのがうつ病の特徴です。

睡眠障害も大部分は途中に覚醒したり早朝に覚醒するようになり、夢を多く見るようになりますが、いくら寝ても疲れがとれないというか過睡眠型の睡眠障害もあります。

食欲の増減も同様で、多くは食欲が低下して、体重が減少しますが、過食になって体重が増加する場合もあります。

これに対して躁状態はその反対の症状です。すなわち、気分は爽快、何でもできるという万能感、活動的で話が止まらない、楽観的で、興奮しやすく、アイディアや連想が早くなり次々といろいろな試みを企てるようになります。性的な活動性も活発になります。睡眠がとれなくなり、朝から活動し、他人とのトラブルが増えてきます。

軽躁状態とは文字通り軽い躁状態のことで、好機嫌、余計なお節介を焼く、多弁傾向、大胆な買い物をする、活動性が高くなるなどですが、躁状態は一般に自覚症状が乏しく、むしろ元気になったと錯覚する傾向があります。自己診断として「寝なくても元気」「不要で高価な買い物をするようになった」「人間関係でいろいろのところに頭を突っ込むようになった」などが目安になります。

分類

大きく分けて大うつ病と双極性障害に分類します。

大うつ病とは主うつ病の誤訳で(中うつ病や小うつ病はありません)、最も多いうつ病を指している言葉です。大うつ病は躁状態にならないうつ病を意味し、躁状態を持つ時期があるときに双極性障害といいます。躁状態が軽躁状態以上にならないものをⅡ型、激しい躁状態になるものをⅠ型と分類します。

3年以上慢性のうつ状態が続くとき、うつ病の診断基準を満たすものを持続性うつ病、診断基準を満たさないが、鬱情状態が続くものを気分変調性障害と診断します。

そのほか、サブタイプがあって、急速回転型、季節うつ病、反復性のうつ病などがあります。

よくある質問と回答
うつ病はどのくらいいるのか

日本のデータはありませんので、正確には分かりませんが、欧米での統計だと有病率(現在うつ病の人の割合)は5パーセント前後といわれています。しかし、生涯有病率(一生のうちでうつ病にかかる人の割合)は多い統計では男性17パーセント、女性20パーセントといわれており、かなりありふれた病気であるといえます。世界各国で近年傾向が認められています。

原因は?

解明はまだ途上になりますが、この障害が脳の神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリンの代謝低下と関連することは確実です。ある程度遺伝傾向が認められます。環境要因も重要で、過重労働、対人的ストレス、近親や恋人、友人の死亡や別れ、経済状態の悪化などさまざまな環境要因が関与しています。

どんな治療をするのですか?

もっとも中心となるのは薬物療法です。うつ病治療の進歩は薬物療法の進歩と平行しています。

現在第一選択剤として選ばれるのはSSRIとかSNRIといわれる薬物です。この種の新しい薬物が選ばれるようになったのは、まず安全性や副作用が劇的にて少なくなったことにあります。抗うつ剤は開発途上にありますので、選択できる薬物の幅は広がって治療しやすくなるでしょう。

うつ病では、特有の認知の歪みが出て、否定的な思考に染められたり、一部の失敗を全体に広げてしまう傾向があります。先読みをして取り越し苦労をする傾向や、過去の失敗にこだわる傾向があります。そうした考えの癖を修正することはうつ病の治療に役立ちます。心理療法的な面接は薬物療法と同等に重要でしょう。

どんなことに気をつければよいですか?よい食品がありますか?

セロトニンやノルアドレナリンは脳の神経細胞の中で自家生産していますので、食べ物から直接脳に入りません(もし入ったら、大変なことになります。それで、脳と脳の血管の間には関所があって、物質が直接入らないようにしています)。うつ病によいといわれるサプリはすべて効果は否定されています。無駄なお金を使わないでください。

運動や日光に浴びることは有用です。早寝早起きと、アルコールを飲まないことは是非実行してください。急性期(病気になりたてのころ)には十分な休養を取ることが大切で、無理に運動したり、外出すること、人に会ったりすることは疲弊させて悪化させます。

周囲の人はどんなことを心がけらよいでしょうか?

一般に批判しない、説教しない、頑張れといわない、精神力で乗り切れてといわないというのが原則です。しかし、もう少し、患者さんの中に入って、して欲しいことを聞くと、「穏やかな無関心」が一番ありがたいといいます。穏やかな無関心とは、無関心や無視ではなく、それとなく関心をはらってもらいながら、そっと「どうだ?」とか「だいじょうぶか?」など、うつのことに触れないような接し方です。安心して休ませてあげる心遣いが重要です。

後で述べますが、近年増えてきたのは引きこもりを主症状とするうつ病で自己中心的、他罰的、怒りなどこれまでのうつ病と違ったタイプの患者さんの場合にでは、この方法は通用しません

薬はどんな風に効くのですか?いつまでのめばよいのですか?

SSRIはSelective Serotonin Reuptake Inhibitor(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)、SNRIはSerotonin and Noradrenalin Reuptake Inhibitor(選択的ノルアドレナリン、セロトニン再取り込み阻害剤)の頭文字を取ったものです。セロトニン(あるいは、および、ノルアドレナリン)だけを再取り込みすることを抑える作用がこの薬の主要な作用です。ちょっと難しい話ですね。

神経(ニューロン)は脳の中でネットワークを作っていて、さまざまな神経細胞と連絡を取っています。その神経と神経のつなぎ目には実は小さな隙間があって、それをシナプス間隙と呼んでいますが、その間の情報伝達をするのがセロトニンやノルアドレナリンです。これを神経伝達物質と呼びます。

神経伝達物質はこのほかアセチルコリン、ヒスタミン、アミノ酸などたくさんの物質が関与していますが、うつ病に関係しているのはセロトニンとノルアドレナリンです。

神経終末から遊離したセロトニンは次の神経に到達すると神経受容器に作用して情報が伝えられるという仕組みになっていますが、実は受容器に到達する神経伝達物質は96%再取り込みされて元の神経シナプスに戻されて壊されてしまいます。4%しか利用されていないのです。この再取り込みを抑えることによって、多くの神経伝達物質が神経受容器に作用すれば、代謝の低下が解決することになります。

選択的というのはヒスタミンやアセチルコリンには作用しないことを意味しています。これが抗うつ剤の作用ということになっていますが、実はそう簡単ではないことが分かってきました。

再取り込みを抑える作用は服薬するとすぐに出現しますが、薬はすぐに効きません。それで分かってきたことは、抗うつ剤を飲んでいると、さまざまな変化が起こってくるという事実です。ます、受容器に多くのセロトニンが行くようになると、「来過ぎである」であるという信号を出して、セロトニンの産生を逆に抑えるメカニズムが働きます(ネガティブ フィードバックです)。そうすると原理的にうつ病は悪化しますね。実はダウンレギュレーション(下方に修正)といって一時よくなったうつ病が悪化することがあるのです。ダウンレギュレーションが起こってから本質的な症状完全がみられるようになります。

まず、神経受容器の数が増加します。そして、受容器に入ったセロトニンを識別する特別なアミノ酸の量が増加し、サイクリックAMPという酵素が増加するようになります。されに興味深いことには、脳の中で唯一細胞分裂をする海馬の神経細胞が、うつ病では分裂が低下することが分かっていますが、抗うつ剤を飲んでいると、再び増加するようになります。海馬は記憶に関係する神経核です。こうして考えると、抗うつ剤の作用は、対症療法というよりはもっと本質的な部分で作用していることが分かります。

ここで明らかになることは、

  • 薬はすぐには効かない(3週間前後かかる)
  • 効いてくると本質的な改善が見込める
  • ある程度長期間服用する必要がある。

ということです。

ではいつまで服用したらよいのかということですが、これにも実証研究があります。

よくなったらすぐに止めた群、3ヵ月間服用した群、6ヶ月、9ヶ月後まで服用した群、というように4つの群で再発率を調べた結果、長期投与群は明らかに再発率が減少しました。後療法として最低6ヶ月、できたら10ヶ月間服用した方が再発しにくくなります。ただし、再発率は0にはなりません。

再発率はそんなに高いのですか?

そうですね。初回にかかった人が2回目にうつ病になる確率は50-60%といわれています。2回目の患者さんが3回目になる確率は85%という統計があります。うつ病は再発しやすい病気です。1年以内に再発するようであれば、継続して飲み続けた方が安全です。未服用ですと、5年以内の再発率は70%ですが、服用していると、半分以下になるという統計もあります。

副作用はありますか?自殺が増えるという話も聞きますが。習慣性はありますか?

生命に危険をもたらすような副作用はまず心配しなくてもよいでしょう。よくある副作用は頭痛、吐き気、性機能障害などです。そのときには医師に相談してください。

抗うつ剤によって若年者の自殺が増加するとアメリカ食品医薬局が警告しました。しかし、もともとうつ病は自殺させる症状があります。また、若年者の場合にはパーソナリティ障害の合併例が多く、更に自殺をリスクが高くさせるでしょう。抗うつ剤を服用すると、衝動や攻撃性が高くなる人もいて、攻撃性が自分に向くと自殺のリスクは高くなる可能性があります。単に薬をのめばよいというわけにはいかない理由がそこにあります。しっかりとした状態把握と、精神療法的なサポートが必要になるわけです。私自身は抗うつ剤が原因で自殺した例には遭遇していません。

抗うつ剤は依存性がありませんので、習慣性にはなりません。ただし、ある種のSSRIは止めるときに離脱症状が出現しますので、医師の計画のしたがって、徐々に減量する必要があります。

うつ病は心の風邪といわれていますが、私は10年以上うつ病に苦しんでいます。そんなに治りやすいのでしょうか?

うつ病は簡単に回復する人と、長引いてなかなか回復しない人がいます。多くの統計調査は60%以上が慢性化すると報告されています。しかし、長期に回復しない理由は十分に抗うつ剤は使用されていない、薬物選択が間違っている、パーソナリティ障害が合併しているなどの理由があるようです。抗うつ剤だけでは回復しない患者さんにも、気分調整剤であるリチウムやバルプロ酸、あるいは甲状腺ホルモンやドーパミン刺激剤を併用するなどによって改善することができます。 医師とご相談してください。

なにかうつ病の人に生きるためのヒントを下さい。

そうですね。いろいろありますが、まず、考えの癖を直すことを勧めます。 人間の考えは微分回路と積分回路で動いています。微分回路というのは先読みしてこれからの変化に対応する思考パターンです。積分回路はこれまでの経験から現在もっともよい選択をするパターンです。うつ病の人は微分回路が異常に発達しています。

これからどうなるだろうか、ああしておかなければならない、こうしておこうとか準備万端怠りない人です。しかし、未来の変化は無数で、その変数に一つ一つ対応していると、不安がどんどん増え続けて、疲労してゆくことになりますね。微分回路を止めて、積分回路で生きることを勧めます。積分回路は、いまからあれこれ考えるのではなく、その時点で一番よい選択をすることです。大体、数ヶ月先のことでさえ、変化が大きすぎて予測できないではないですか?微分回路も積分回路も人間には必要ですが、うつ病の人は微分回路だけで生きているように思います。前重心を積分回路に移してちょうどよいバランスになると思います。

それから、うつ病の人は散歩ができない人ですね、いつも目的に向かってひたひたと急ぎ足で歩いている人です。散歩をすれば、周囲の景色がよく見えてくるでしょう?発見も多くなるのでは?心の散歩を心がけることはうつ病の予防になります。

双極性障害

最近注目されてきたのが双極性障害II型です。

双極性障害というのは、躁とうつの二つの極があるという意味です。I型はこれまでの躁うつ病と同じものですが、II型は躁状態といっても軽躁状態までで、激しい躁状態までに至らないものをいいます。このタイプの人はこれまで考えられていたよりも多いことがわかってきました。うつ状態は通常は持続性で長く続く傾向があります。難治性うつ病として治療を受けていた人で双極性II型であったという人は結構多いものです。うつ病と治療の戦略がだいぶ異なりますので、注意が必要です。

軽躁状態は期間が長い人もいますが、多くは短期間ですので自分でも軽躁状態であるとは自覚していないことが多いのです。「ハイになっている」「浪費してしまう、金遣いが荒くなった」「眠らなくても疲れない」「攻撃的になった」「おしゃべりがすぎる」「お節介をしてしまう」などが標識になるでしょう。

治療は気分調整剤(ムードスタビライザー)といわれる薬が主剤になります。バルプロ酸、カルバマゼピン、炭酸リチウムなどがこれにあたります。

単極性うつ病と双極性障害は病前の性格も異なります。単極性障害では几帳面、律儀、細かい作業をいとわない、秩序順序にこだわる、自責的、細部に拘泥する、協調性を重んじる、気配りするなど、どちらかといえばエネルギーの乏しい「弱力性性格」ですが、双極性障害II型では、面倒見がよい、他人のために尽くすのが好き、積極的、向上心がつよい、几帳面ではないなどの「強力性性格」の人が多いようです

不安障害とは

DSM-IV(米国精神医学会による精神疾患の分類と診断マニュアル)では

  1. パニック障害
  2. 広場恐怖
  3. 社会不安性障害
  4. 強迫性障害
  5. 外傷後ストレス障害
  6. 急性ストレス障害
  7. 全般性不安障害
  8. 物質誘発性不安障害

に分類しています。

国際分類であるICD10(ICD:International Classification of Disease)ではもっと簡略化されています。

パニック障害

突然死ぬような恐怖に陥って、呼吸困難、動悸、めまい、冷や汗などの自律神経症状を伴う急性の不安性障害です。発作的に起こり、通常数分から30分以内に症状は消失しますが、繰り返す傾向があります。「またなるのではないか」という予期不安の存在も特徴です。多くの場合、一人でいるときや、そこから簡単に抜け出せないような閉鎖空間で起こりやすい傾向があります(広場恐怖)。電車の中、それも混み合った電車や特急、急行のような停まらない電車、人が密集して混み合った場所、地下室やエレベーターなどの場所で起こりやすい特徴があります。

多くの人は「気が小さいからなる」と思いこみがちですが、実は高血圧症やぜんそくと同じような「病気」です。パニック障害の患者さんは精神主義的なところがあって、薬なしで治したい欲求があって、また投薬に対して心理的に抵抗する傾向があるようです。恐らく、こうした傾向も障害と関連する症状ではないかと思います。

薬物療法は基本になります。使う薬はSSRIといわれるうつ病の薬が第一選択薬です。そのほか、抗不安薬を使うことがあります。うつ病に使う薬がどうして効くのかというと、セロトニンの代謝低下と関連するからでしょう。実際にパニック障害とうつ病はよく合併します。

薬物療法のほか、心理療法が重要です。安定期に入ったら不安にむしろ積極的に直面し、徐々に不安が軽いものから重いものへと立ち向かうようなexposure method(暴露療法)が適切でしょう。知っておいて欲しいのは、パニック障害の症状が幾ら激しくても、「絶対に死なない」「気が狂わない」「時間がくれば治る」という三原則です。

再発を防ぐために予期不安が完全に消失するまで服薬を続けた方がよいでしょう。

社会不安性障害

社会的場面(たとえば、大勢の人の前でのプレゼンテーション、会食、講演など)で極度の緊張や不安が高まり、吐き気、動悸、発汗などの症状が出現するものです。それとよく似たものに、対人恐怖症というのがありますが、対人恐怖症は「間が持てない」「しらけるような雰囲気が怖い」「赤面するのが怖い」「人前でどもってしまう」「親しい人でもなく、全く赤の他人でもないような中間の人の間で緊張してしまう」という症状です。対人恐怖症は近年減少して、社会不安性障害が増えてきました。なかでも、プレゼンの恐怖と会食恐怖(吐くのではないかという恐怖を伴う)が多いようです。

強迫性障害

馬鹿馬鹿しいと思っているが、確認、儀式(手洗い、不潔恐怖、戸締まりやガス栓の確認、入眠までの儀式など)の行為を止められない、馬鹿馬鹿しい観念が浮かんでくるのを止められないというのが強迫性障害です。強迫性障害は治療がなかなか難しい(薬が効きにくい)特徴がありますが、SSRIが奏功する例もあります。

行動療法で治療するのが一般的ですが、実際には有効ではありません。強迫性障害はうつ病や統合失調症でも合併しますが、原疾患を治療すると改善する傾向があります。近年多いのは、発達障害を基盤とする強迫性障害でたとえばADHDやアスペルガー障害を持つ人が失敗を過度に警戒した結果なるケースがあります。また自己愛性パーソナリティ障害でも高率に強迫性障害が出現します。どのタイプであるのかが治療上重要になります。

発達障害

自閉スペクトラム症(アスペルガー障害)

自閉症は自閉とは何の関係もありません。話し言葉の発達の障害とコミュニケーションの障害を中心とする一子供の発達障害に対して「小児の統合失調症」と考えたカナーが「早期小児自閉症」という概念を打ち立てたために作られた言葉です。ほとんど同時期にアスペルガーが同じ症状を記載しましたが、カナーが提示した自閉症のほとんどがかなり重い知的障害を持つのに対して、アスペルガーの症例は知能は普通かそれ以上であったので、これまでカナー型とかアスペルガー型と分けられたり、アスペルガー型を高機能自閉症と呼んだりしていましたが、長いこと両者が別の障害であるのか連続帯であるのか議論が続いていました。ようやく遺伝研究や双生児研究、広範な予後研究を通じて連続帯と認識されて自閉症スペクトラム症と呼ぶようになりました。ICD10では広汎性発達障害が自閉スペクトラム症にあたります。

自閉スペクトラム症のDSM-5の診断基準は精神科医であってもわかりにくい概念です。中心症状は固執性、コミュニケーションの質的障害、イマジネーションの障害ですが、これでもわかりにくいと思います。近年の精神医学で問題となるのはいわゆるグレーゾーンと言われる軽症あるいは境界線級の自閉スペクトラム症ですが、操作的診断学で診断するのは難しいかもしれません。

グレーゾーンの自閉スペクトラム症と知的障害や多くに器質的症状を伴う自閉症とは異なるものと私は考えています。アスペルガー障害(高機能自閉症)は病気ではなく、おそらくホモサピエンスが出現したときからその有用性から少数派として存在し続ける必然性があったのだと思います。

自閉スペクトラム症の病理はまだわかっていないことが多いのですが、社会脳といわれるコミュニケーションに関係する脳の部位の機能が十分ではなく、その働きを大脳で代行していると考えると分かりやすいかもしれません。社会脳は状況の文脈で物事を判断し、相手の状況によって言ってよいことやいけないことを判断し、言い方を工夫したりする機能です。「アスペルガー障害の人は空気が読めない」と言われるのはそのためです。考えは演繹的論理的思考に依存し、気持ちをわかると言うことは不得手ですので理屈っぽく、相手の状況や気持ちに関係なく「正しいこと」を述べてしまうために本人には悪意がないのに他人を怒らせてしまったりして人間関係を壊してしまうことがたびたびあります。

職場で「あれ、ちゃんとやっといてね」と言われると「あれ」がなになのか複数浮かび、特定できません。ちゃんとという程度がどの程度なのかわかりにくいところがあります。多数派の人は「あれ」というのは状況の中で一つだけ特定することができますが。指示代名詞や程度を表す言葉の理解が難しいところがあります。一般に視覚情報に優れ、文章や図形の理解は優れていますが、話し言葉の理解やニュアンス、表情や態度の意味を理解することが難しいようです。

また目の前にあることを認識し、理解し、記憶することは優れていますが、事柄の展開や変化を想像すること、相手の気持ちを自分の中にまざまざと思い浮かべることは難しいようです。そのために相手の気持ちをわかることができないところがあります。

固執性は同一性保持の傾向と置き換えられます。多数派の人が広く浅くやるのに対して少数派の彼らは穴を掘る人で、狭い領域のことを深く追求することが得意です。そういう意味で多数派の人が総合職に向いているのに対して専門職、技術職、匠的な職人、ライセンスを持つ仕事、研究職などに向いているといえます。

臨機応変が苦手です。また環境の変化に弱く、慣れるまで時間がかかります。想定外のことが生じるとしばしばパニックになります。

知覚過敏の傾向が強く音や光、触覚に過敏な傾向を持つ人が多くあります。Hyper Sensitivity Personality 過敏性パーソナリティといわれるのも実は軽症自閉スペクトラム症ではないかと思われます。

記憶は多数派の人が劣化するのに対して、少数派の彼らは保存される傾向があります。タイムスリップ現象は「過去の出来事が動画を再生するようにリアルに再現すること」を言いますが、よくフラッシュバックと間違えられます。

自閉スペクトラム症は気分障害(多くは双極Ⅱ型障害)や解離性同一性障害、パーソナリティ障害、不安障害を合併します。また、ADHDもほとんどの人に合併します。

治療は意外と薬物療法も効果があります。「薬がこんなに効くとは思わなかった」と患者さんがおっしゃいますが、同時にコーピングや精神療法も必要です。私たちのクリニックで軽症発達障害に特化したグループ治療を行っています。

ADHD(ADD)

ADHD(Attention Deficit Hyperactive Disorder : 注意欠陥多動性障害)はこれまで児童思春期までの障害と考えられてきましたが、近年この障害は成人になっても治癒することなく持続することが多くの追跡調査から判明するようになりました。また「片づけられない女たち」というタイトルの書物が本屋で平積みされるようになると、同類の書物が相次いで刊行され、成人のADHDに対する一般の関心も深まって自分で診断をつけて来院するケースが増えてきました。

しかし、この障害が元々児童精神医学領域の障害であること、成人型に対する知識の不足から、我が国の精神科医の対応にはまだ遅れが目立つというのが実状です。ADDは注意欠陥多動性障害のうち、Hyperactive=多動を欠く注意欠陥性障害を指します。

ADHDの出現率は児童の6%以上といわれ、男子の有病率が4:1と高いことが知られていますが、多動を欠くADDでは女子に多く、さほど性差はないのかもしれません。

ADHDは多動性注意障害興奮性衝動性の4領域で症状が出現する発達性障害です。したがって、症状は年齢とともに変化しますが、基本的にはごく幼児期からそれらの症状が出現し、持続することが特徴です。しかし、この4つの症状すべてが揃うとは限りません。多動性と興奮性を欠く、注意障害と衝動性が優位のケースなども多いのです。

成人のADHDは基本的には子供の症状と同じですが、たとえば教室内で動き回るとか、宿題を忘れる、よく喧嘩をする、危ない遊びをする、ゲームには熱中するが、集中を求められる課題は長続きをしないなどという具体的症状は成人では違った課題で出現します。たとえば税金の申告期限の問題やレポートの提出、細かい作業や情報連絡などの課題でADHD(ADD)の問題が出てくるわけです。

症状

成人になると多動性では子供の時のような落ち着きのなさは少なくなりますが、よく観察すると、始終指を動かしたり、こすったりし、また同じ姿勢を保てず、前後左右に体を動かしている、すぐに席を立ってしまう、いつもなにかしている、じっと座っているともぞもぞする、緊張が高まるといっそうそうした傾向が高まるなどの行動に表れます。

思考面でも多動性が出現します。人が話し終わっていないのに遮って口を挟んでしまう、順番を待てない、一方的にしゃべりたがるなどです。

注意障害では注意の幅と転動性に障害が特徴的です。まんべんなく注意を払うことができない、一つに気が取られると、他が見えない、職場でケアレスミスが多い、注意が散りやすい、人の話を聞いていないといわれるなどです。

注意の必要な作業は困難で、やりたくない作業は続けられない、注意されても同じ誤りを繰り返す、長続きしない、などの問題も生じ易いのです。

興奮性は上司や同僚との衝突、自分で納得できないことに出会うとキレてしまうこと、拒絶されたり、からかわれたり、批判されたり、挫折したりすることに敏感で怒りを感じやすいことなどがあげられます。熱中癖も興奮性の一つで、競馬、競輪、パチンコなどの賭博やアルコール症、たばこ、シンナーなどのような嗜癖・依存も興奮性に対するコーピングと考えられます。音楽、テレビなどの音がかえって集中を助けるのも注意障害と興奮性に関係がある。

衝動性は無計画性、無秩序性に特徴があり、行き当たりばったりで、すぐに行動に移してしまう傾向や、仕事の手順を考えることが苦手とか、片づけの困難、約束を守れない、期限が来てもやらずに先延ばしにするなどの行動にあらわれます。そのために社会的信用や対人関係の支障を招いてしまうことが少なくありません。整理整頓も苦手の一つです。

これと関連して、初動障害と言うべき現象があります。先延ばしの傾向で、片付けや約束、期限は分かっているので、ぐずぐずと先延ばしをして社会的信用を失うことが起こります。

この障害は多かれ少なかれ心理発達上の問題を合併します。幼児期からほめられることが少なく、叱られてばかりいること、またLD(学習障害=特異的発達障害)を伴うことが多く、特定領域の軽度の失認や失行のために課題失敗を繰り返すために自信を失いがちであり、行為障害(非行)や物質依存を形成しやすいといわれています。この面から単に薬物療法だけでなく、精神療法的なアプローチが必要となってくるわけです。

関連障害

気分障害強迫性障害の合併が少なくありません。また物質依存(シンナー・たばこ・アルコールを含む)や病的賭博(パチンコ依存症)との関連、あるいは児童思春期では行為障害(暴走族・非行グループを含む)、成人では反社会的行動との関連も指摘されています。パーソナリティ障害境界性人格障害自己愛性人格障害)の合併がみられることもありますが、一番多いのは、職場内の適応障害や抑うつ反応でしょう。

原因

有力な仮説は遺伝要因と周産時障害である。そのほか栄養説などもある。遺伝については実証研究があり、推定遺伝率は64%といわれています。

本障害は微細な脳の機能障害を基盤として生じると考えられ、責任病巣は前頭葉の前頭前野におけるドーパミンの機能低下が考えられています。

治療

基盤となるのは薬物療法ですが、もっとも効果があるメチルフェニデート(Rリタリン)は一部の医師の乱用問題から成人に使用することを禁じられています。16歳までなら、コンサータという表品名のメチルフェニデート時効錠使用できます。近いうちに成人のADHDに有効な薬物が発売になる予定です。

リタリンは依存症が問題になりますが、ADHDの患者さんは依存症になりません。これはおそらく、ADHDの場合にはむしろ鎮静的に働くからではないかと考えられています。

付 大人のADD自己チェクリスト(25設問のうち、10個以上でADDの疑いがある)

「片づかない!見つからない!間に合わない!」リン・ワイス著 ニキ・リンコ訳WAVE出版より引用

  • 始めたことをやり通せないことが多い
  • 人の話を聞いていられないのかと思われる
  • すぐに気が散る
  • 注意の持続が必要な作業には集中しづらい
  • やりたくない活動を続けられない
  • やりかけで別な作業に取りかかることが多い
  • 考える前に動いてしまうことが多い
  • 仕事の手順を考えることが苦手
  • 枠組みの決まった環境だとうまくゆく
  • 人が話し終わっていないのに、遮って口を挟んでしまうことが多い
  • 順番を待つことが苦手
  • 辛抱できない
  • 動きすぎるが、じっとしていると眠ってしまう
  • じっと座っているのが苦手あるいはもぞもぞ動く
  • すぐに席を立ちたくなる
  • いつも何かしている
  • 一度に二つ以上のことに手をつける
  • 拒絶されたり、からかわれたり、批判されたり、挫折したりすることに敏感
  • 気分がコロコロと変わりやすいが、それには理由がある
  • 舞い上がった後で、悪いことを考えてしまうことが多い
  • なでる、抱くなどは、するのもされるのも苦手
  • 音楽、テレビなどの音がかえって集中を助ける
  • すぐに人のせいにしようとする
  • 一人で一方的にしゃべりたがる。しゃべり出すと長い
  • 命令されるよりも頼まれる方が協力的になれる

発達障害

幼いときに発症した脳機能の偏りがあり、それが現在も持続し、生活機能を損なうときに発達障害といいます。ですから、生活機能が損なわれていないときには発達障害とはいいません。発達障害の治療は生活機能を向上させることになります。

主なものは

  1. 知的能力障害群(有病率1%)
  2. コミュニケーション障害群
  3. 言語障害 語音障害 吃音 社会的コミュニケーション障害
  4. 自閉スペクトラム症(有病率1%)
  5. 限局性学習障害(5-15%)

ですが、ここでは治療上重要な自閉スペクトラム症と注意欠如多動性障害について述べることにします。

自閉スペクトラム症と注意欠如多動性障害は合併することが多いものです。

1)注意欠如多動性障害(ADHD)は4つの基本症状があります。いずれも子どもの頃から他の子どもと明らかに目立って以下のような症状を示しますが、注意障害以外はでない人も多いので、そのときには注意欠如性障害(ADD)といいます。

  1. 注意障害
  2. 多動性
  3. 衝動性
  4. 興奮性
①注意障害

注意の幅と転動性の障害です。注意はまんべんなく注意を払うことと、特定のものに注意を集中することが必要です。運転するときには前方に注意を向けると同時に、左右や時には後ろにも注意を向けなければ安全に運転できませんね。それが注意の幅と転動性です。

具体的には

  • 忘れ物が多い、物をよく無くす、いつも物を探している
  • 見落としミスが多い、気が散りやすい、集中が続かない、うっかりミスの多発
  • 好きなものは熱中し、嫌いなものや興味のないものはすぐ飽きてしまう
  • 人の話しを聞いていない 誤字・脱字・変換ミスが多い
  • 一つのものに注目すると、他は見えなくなる などです。
②多動性

男児に多い。16歳ころには落ち着くことが多いが、成人になっても指や体を絶えず動かす、ボールペンのくるくる回し、待てない、せっかち、人の話を遮るなどがある。

③衝動性・秩序崩壊

片付けられない(ゴミ屋敷)、計画が立てられない、詰めが甘い、優先順位がつけられない、同時並行作業が苦手、間に合わない、先送り、物質・ギャンブル依存(アルコール、タバコ、ギャンブル、ゲーム)

④興奮性

カッとなりやすい、瞬間湯沸かし器、キレやすい。起こった後はケロッとしている。
子供のころは乱暴者。

以上が主症状ですが、仕事上では
詰めが甘い、優先順位がつけにくい、ミスや見落としが多い、相手の話を遮ってしまう、時間管理ができない、片付けられない、間に合わない、約束を忘れる、先延ばしをするなどがあって職業生活を送る上で大きなハンディギャップになります。これらは本人の努力が足りないとか、性格であるとかたづけられていましたが、実は発症頻度がとても多い発達障害であったのです。そのほか突然襲う眠気がある人も多く、会議中や運転中に眠くなる、居眠りするということもあります。

ADHD/ADDは診断さえ正しければ、治療の効果がはっきりと認められます。皆さんは「治療を受けて人生が変わった」という感想を述べる方が少なくありません。薬物療法の選択の幅もずいぶんと広がりました。また、薬をやがて止めるためにもと対処法(コーピング)を学んでゆく必要があります。